ルミガン効果

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矛盾はオトナの抑止力?

  2度にわたるパリのテロ事件の後、はためく三色旗の波をテレビで見ながら、ふと深刻な感慨に襲われた。3色はそれぞれ自由、平等、友愛を表しており、今やこれは先進国の共通の価値観になっているわけだが、思えば近代世界は厄介な約束を背負い込んだものだと、あらためて感じたのである。3つの価値は互い矛盾していて、どれも完全に実現できないものであることは、始めから自明だからである。

  完全な自由を許せば身勝手な競争をそそのかすことになり、貧富の格差を招くのは目に見えている。逆に、平等の徹底を求めれば富の分配を権力の手に渡すほかはなく、官僚の独裁をもたらすことはかつての社会主義社会が教えている。友愛も聞こえはよいが、過度に及ぶとプライバシーや都市の無名性と対立しやすく、前近代的なおせっかいと相互監視を起こしかねない。友愛の精神は公的な福祉制度に委ね、密着型の面倒見のよさはプロの手に任そうというのが、近代国家の一般的な趨勢ではないだろうか。

  ちなみにパリはこの都市的自由を完璧に実現した街だったが、皮肉にもその自由の隙をテロリストにつかれたのだった。だが21世紀の初頭ごろから、どう見てもこの近代的価値観の矛盾は均衡を崩し始めた。冷戦が西側の勝利に終わり、金融市場が世界を支配するにつれて、自由が他の価値を圧倒する傾向が強まったのである。社会民主的な福祉政策はどの国でも後退し、新しくそれをはじめようという、たとえば「オバマ・ケア」も行き詰まっている。経済格差は個人のあいだで広がっただけでなく、ドイツとギリシャのように国家間にも及んでいる。自由はまた旧東側に庇護されていた独裁政権を倒したが、その後に現れたのは人権や個人主義ではなく、多くは国家以前の部族や宗教宗派の抗争だった。

  「アラブの春」が失敗の典型であり、チュニジアを除いて、どこでも残ったのはテロと内戦か、あるいは軍部による独裁の再現にすぎなかった。当初の民衆の蜂起に期待し、ときに支援もした西側の市民は完全な錯覚を犯していたのである。錯覚は近代的価値観がじつはそれだけでは十分ではなく、近代人が苦労して養ったおとなの良識の支えが必要だ、という教訓の忘却からきていた。自由、平等、友愛が矛盾する夢であって、どこかで妥協や中途半端が必要だというおとなの知恵を、かつての西側国民は苦難を通じて学んでいた。フランス革命の悲劇とナポレオンの独裁、2度の世界大戦と全体主義、さらに階級対立や人種問題を通じて、近代国民は政治に一刀両断の解決はありえないことを、暗黙に理解していた。

  にもかかわらず明らかに「アラブの春」では、欧米諸国は有頂天になっていた。歴史的な学修が十分でなく、おとなになっていないアラブの若者を、自由の観念だけで煽り立てた。自由には豊かさが、豊かさには教育と技術と勤勉が、さらにそのためには安定した社会が欠かせないのだが、その現実を教えることなく革命だけを煽動した。しかもすでに豊かな近代国家にも矛盾があって、人々はおとなの態度でそれに我慢していることも十分には伝えなかった。革命後、現実を見た若者が幻滅して、近代的価値そのものに反旗を翻したのはむしろ当然だった。有頂天といえば、冷戦後の西側はみずからの自由主義を旧東側にも性急に拡大しつづけた。欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)は急速に東漸し、グルジアやウクライナまでロシアの支配から解放しようとした。

  プーチンのロシアが専制的であり、現地住民の多くが西側に傾いていたとはいえ、正義の輸出は急がないのがおとなの態度だろう。ロシアとの妥協をはかり、現地住民の民族主義を抑え、代わりにもっと実利的な開発援助をおこなうのが賢明だったと、今となっては悔やまれるのではないか。ここまできて、急がれるのはあの三色旗の矛盾を回復すること、対立する価値観の均衡を取り戻すことである。市場の自由の暴走は抑えがたいが、その分だけ内には平等に重点を置き、外には自由の輸出に固執しない政治をめざすべきだろう。友愛についてもその過剰な近代化を防ぎ、血縁家族や近隣共同体を新しく再設計することが求められる。

  今、近代的価値観はその誕生以来、おそらく初めての根本的な挑戦を受けている。イスラム過激派は完全な政教一致を主張し、その暴力による強制をすでに実行に移している。当面、これの抑制は武力によるほかあるまいが、より本格的な防御にはきわめて迂遠な近代社会の自己改革が避けられない。一刀両断しか知らない敵と闘うのは難しいとはいえ、間違ってもフランスのルペン氏やアメリカのトランプ氏のように、一刀両断を叫ぶことに勝利の道はないのである。
(山崎正和、産経ニュース、2月22日)

  一方的に声高なイデオロギーやプロパガンダを叫ぶのではなく、人間の現実に配慮した微妙なバランス感覚が、虚無主義の瀬戸際にある現代政治には特に必要とされるような気がしますね。個人的にはTPPを潰してくれる候補がありがたいのですが…
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